鯖江市役所JK課を手掛ける若新氏に聞く「ゆるい派」と「硬い派」で生まれる新しい価値とは
取り組みの中の一つである「鯖江市役所JK課」は地元のJK(女子高生)と市職員による町のPRの取り組みが多くのメディアに取り上げられました。
本記事では、そんな若新さんに新規プロジェクトを立ち上げ成功させるための秘訣、さらに企業の採用に対する価値観など、幅広く疑問に思っていることをうかがいました。
2014年にスタートした鯖江市が取り組む実験的な市民協働推進プロジェクト。
鯖江市のJK(女子高生)たちが中心となり、アイディアを出しあい、団体や地元企業、大学、地域メディアなどと連携・協力しながら、自分たちのまちを楽しむ企画や活動を行っている。
株式会社NewYouth 代表取締役
慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任准教授
国立福井大学 産学官連携本部 客員准教授
鯖江市役所JK課 プロデューサー、体験移住事業「ゆるい移住」コーディネーターとして
市民参加による新しいまちづくりを、鯖江市とスタートさせる。
「ゴールを決めずに話し合う」ことが創造的な意見を出すコツ
ちょくルート編集部:
新規プロジェクトや企画を始めるときって、旗揚げする人がいて、そこに全く別の部署の人たちが集まってスタートする、っていうことは多いと思うのですが、初動で足並みそろわず苦戦することって多いと思います。
なかでも、だれも想像していない人たちとのコラボレーションで
新しい価値を生み出すプロジェクトが、まさに若新さんが手掛けている「鯖江市役所JK課」や「ゆるい移住」と思うのですが、成功のためにどのようなチーム作りを意識されているのでしょう?
若新さん:
僕がプロジェクトを組むときに大事にしていることがあって、一言で言うと「ゆるさとかたさの共存」なんです。
ちょくルート編集部:
ゆるさと硬さの共存。
若新さん:
プロジェクトの中で一番大切にしているのは各個人の特性です。
アイディアや企画をあげるのが得意だけど、実行の仕方がわからない、または形にするのが苦手な人、一方で、企画を考えることは苦手だけど、決まったことを確実に遂行していき形にするのが得意な人がいると思うんですけど、僕はそれをゆるい派、硬い派と考えているんです。
ちょくルート編集部:
ゆるい、硬いは新鮮ですね。
それぞれの派閥の人は、プロジェクトの中でどのように共存するのですか?
若新さん:
やってみないと答えがわからないもの、探す必要、見出す必要があるテーマが世の中にたくさんあると思うんですけど、答えが単純に出ないというものに関して、あらかじめ「こうだよね」と答えを見出さずにスタートさせることが、まず前提です。
時間の設定や短期的な成果を決めずに、みんなで思っていたこと、感じていたことを自由に話しながら、答えを創造的に作っていく。そうするとだんだん面白くなってきて、「じゃああれしよう」「これも面白そう」となっていきますよね。
ちょくルート編集部:
先に「こうなるだろう」という予測をしないということが大前提なのですね。
若新さん:
そうなんです。あらかじめ決めてしまうとリアルに思っていることがなかなか出てこなくなるので、会議というより、「おしゃべり」という感覚ですね。
でも、そうなると面白いことはいっぱいでるけど、「どう実行するのか?」だったり、会議で出たアイディアが次の会議までに実行されて、会議も継続されていく・・・というのはなかなか難しいんです。
だからこそ、「ゆるさと硬さの共存」が大事だと思っています。
ゆるさと硬さの共存とは? 「ゆるい派」「硬い派」を意識したチーム作り
ちょくルート編集部:
A「このまえ会議で出ていたやつ進捗どう?」 B「・・・」
こんな感じで、会議自体は盛り上がるけど、次の会議までに何も動いていなかったことありますね。
プロジェクトメンバーって、その企画の専属でないことのほうが多いので、本業の兼ね合いで、着手できないことは多いと思います。
鯖江市役所JK課の場合、女子高生と市の職員は全くタイプが違うなかで、どうまとめられたのでしょう?
若新さん:
まず女子高生には、目標設定とかは与えず、こうしなければいけないというのも与えない、ルールも作らず、来れるだけ来てやればいいというスタンスで、スタートしました。
町おこしのネタを女子高生たちが好き放題話してもらうこと、でた意見をもとに市の職員の方が実行をするというシンプルな役割分担をしています。
普通であれば、みんなで話した内容を女子高生たちに議事録を書かせるのかもしれません。
ですが、協力してくれる会社などリストアップして、必要なところに連絡して・・というような、次の会議までに「〇〇をしてこなければいけない」という一連のフローを彼女たちにさせなかったんです。
これって、大人たちがさせたがるフローですよね。
一人で進めてこそ一人前みたいな。
でも、女子高生には豊富なアイディアを発散してもらうことがプロジェクトの目的です。
おしゃべりしながらアイディアを出し、企画が出せる人を「ゆるい派」とするなら、そのアイディアを元に実行する人を「硬い派」と僕は考えています。
「ゆるい派」と「硬い派」の特徴について
ゆるい派の人たちは、アイディアが豊富にあるけど、形にするのが苦手です。
そのため、女子高生に実行部分を任せてしまうと、次の会議までに何も進まない、話しても形にならないし、だんだん出席するのもおっくうになるという現象は起こりえるでしょう。
だからこそ形にする部分は、企画を実現させることが得意な硬い派の人がやればいい、そこで鯖江市の職員の方の登場です。
企画を出す人と、それを実行する人という役割分担が鯖江市のプロジェクトではうまくいっていたのかなと思います。
ちょくルート編集部:
あえて、一人で2役こなさなくても、得意な人が得意なことをすればいいということですね。
アイディアの発散と収束は一人の人が行うことはできない
若新さん:
何かを具現化させるためには、発散と収束が必要だと思っています。
溜まったアイディアを発散する、そしてそれを形あるものに収束させる。
僕はその発散と収束を同じ人ができないと思っている。カンタンにいうと向き、不向きです。
経営者はどちらかというと、自分のアイディアややりたいことがあって、常にそれを発信していくことに長けている、逆に実務は苦手だったりしますよね。
ちょくルート編集部:
鯖江市役所JK課では「アプリ開発」や「スイーツ商品企画」など女子高生と地元企業の取り組みがあるようですが、そのような企画も同じように進められたのでしょうか?
若新さん:
そうですね。
例えば、JKがみんなでおしゃべりしているとき、女子高生の中で「オリジナルのスイーツが作りたい」となったとします。
お菓子作り面白そう、作ったお菓子をみんなに食べてもらいたい、可愛いデザインはこんなので・・
どんなスイーツがいいのか正解はないので、彼女たちでとことん話しあいます。
じゃあ、誰が何をするのか、どこか有名なお菓子屋さんと組んでオリジナルのスイーツを作りたいって、会議室で好き放題しゃべっても、菓子店にアポをとらないと、次回の会議に菓子店はこない。
でも、鯖江市役所JK課の場合、次回の会議にお菓子店がきます(笑)
なぜなら、このプロジェクトはゆるい派と硬い派のコレボレーションだからです。
ちょくルート編集部:
市の職員の方はどう手を差し伸べるのでしょうか?
若新さん:
どちらかというと、補完ですね。ゆるい派。硬い派といいましたが、頭が固いという意味ではなく、実行していく能力の高さです。
彼女たちにできないことを、硬い派の職員の方がサポートする。それもスマートに。
女子高生たちが話していた会議の議事録も、サラッととっていたりして
会議が終わって彼女たちが帰った後に、お菓子屋さんとの連携を職員の方でサポートしていました。
ちょくルート編集部:
彼女たちの反応はどんな感じですか?
若新さん:
次の会議に、本当に菓子店が来ると、テンションがあがるんです(笑)
「この前○○ちゃん、お菓子作りたいって言ってたじゃん?」
「だから今日は~のお菓子屋さんが来ているよ」と市の職員が紹介すると、
そこで女子高生たちは「おー////」ってなる。(笑)
ちょくルート編集部:
形になった時の感動の声ですね。
若新さん:
一番大事なのは、そのとき女子高生は、大人たちが全部設定したことをやらされている感ではなく、自分たちが言ったことを実現しようとしてくれている思いを感じとるので、
だんだんとプロジェクトが自分事になっていくんですよね。
はじめから菓子店を市が用意していて、お菓子のアイディアをださせるのではなく
集まっておしゃべりしている中で決めていくことで、「面白さ」がうまれてくる。
彼女たちで「こういうのどうかな?」「やってみたい」と盛り上がった時に、それを具現化する仕事を、市の職員の方が遂行することで、ゆるい派と硬い派がコラボレーションできるはずです。
硬い派だけで話し合っても、面白いアイディアは生まれないし、ゆるい派だけでアイディアをぶつけあっても、結局は形にならない。だから、新規プロジェクトのチームメンバーには必ずゆるい派、硬い派を入れるべきなんです。
個々の能力をチームで考えたときに、仕事の実行の仕方を「ゆるい派」、「硬い派」で役割分担していくことは新鮮、かつ合理的な方法だと思いました。
次回は、ゆるい派と硬い派が共存する上で陥りがちな考え方、社会の風潮に切り込んでいきます!
「若者の気持ちがわからない」とお悩みの方にはヒントとなります。ぜひご覧ください。
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